連絡バスで峠越え

バスターミナルに止まっていたJRの連絡バス碓氷線に乗り込む。
駅前を通っている中山道をひたすら下れば横川なのだが、バスはそちらからは行かず、一旦南へ進んで碓氷バイパスを経由するようだ。その方がカーブがきつくなく、走りやすいからだろうか。この辺りはほとんど来たことがないが、なるほど、地図で見る限り中山道はいろは坂のようなつづら折りのようだが、バイパスの方はカーブが比較的緩く数も少なめのようだ。
本ブログで本格的にバスのことを書くのも初めてかもしれない。筆者、バス事情はめっぽう疎いのだが、旅全般、特に長距離移動が好きな身にとっては選択肢として含めたい所でもある。バス路線は鉄道より細かいだけ有って、路線の再編等めまぐるしいかもしれないが、いずれ路線バス乗り継ぎも悪くない。
駅を出ると左折して一旦反対向きに中山道を走り、少し進んだ所で左折して県道43号線に入る。碓氷バイパスへ続く道である。県道に入ると沿道は、人の手が入ってますといわんばかりの、些か鮮やかすぎるように見えなくもない緑に囲まれた、ホテルや観光施設が点在する。軽井沢の典型的、リゾート地的景観という所だろう。賛否はともかく、これを見ないことにはここがリゾート地軽井沢だという実感は湧いてこないというものだろう。清里のペンション群や土産物屋の景観を見るのと、同じような感覚だろうか。景観の造るその土地のイメージというのも観光地にとっては大事な要素だ。

そんな所を抜けていき、左折して碓氷バイパスに入る。ここまで長野から穏やかな風景、最後は軽井沢のリゾート地と来たわけだが、ここからは舞台装置の如く景色が急変する。
道が山越えのようになり、徐々にカーブし始めてくる。一気に視界が開け、近傍の山々が車窓に広がるようになるとつづら折りに入って高度を下げて行く。降り始めは周辺に広がる山々よりこちらの方が高いようで、さながら航空機から見下ろしているような感覚で迫力がある。しかし見ているとどこも岩肌が露出し、切り立った崖のような山ばかりだ。周辺の景色とは似ても似つかぬほどの厳しい地形である。また細かいことを書いては恐縮だが「峠」とは、ある特定の道や鉄道路線などが山を越える所を指すというような意味の言葉である。「碓氷峠」というのは本来、中山道の通過する峠のことを言う(この言葉が重きを置くのは、どちらかというと地形というよりも通過する道の方にあるというべきだろう)ので、このバスが通る碓氷バイパスを指して言うのは、あまり適切でないかもしれない。だが、実感としては一体含めて「碓氷峠」と言って良い程である。それほど「碓氷峠」というとただの峠ではなく、この一帯の厳しい地形も総称して言うくらいのインパクトがあると思う。どんなルート、どんな交通機関であってもここを越えれば「碓氷峠を越えた!」と口にしたくなるはずだ。

絵になる風景が続く。

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だいぶ降りてきて、まもなく横川駅という所。もの凄く高い橋をくぐるが、これは上信越自動車道。ということで鉄道は新幹線で、道路も高速道路でこの碓氷峠を越えることができる。日本の交通網で最大の難所とされながら、今や陸路の高速な交通手段が揃っている状態なのが分かる。「まったく無茶な」という気もするのだが、裏を返せばそれだけこの信越(中山道)ルートが重要交通網であり、碓氷峠を越えることが日本の交通史における一つの課題とされてきたと言っても良かろう。なにせ明治年代からこの信越線ルートは重要視され、東京と関西を結ぶルートにしても今定着している東海道ルートより、敢えてこの険しいルートに注目が向いていた。防衛の観点で東海道ルートはほぼ全体的に海に面していてリスクも大きいと考えられるが、こちらのルートであれば心配も少ないからである。
在来線の廃止は確かに痛みもあったが、この区間があるために東京対長野の輸送の改善が困難になっていたというのも、また事実なのだろう。

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横川駅近くまできた。だいぶ降りて来てさっき見下ろしていた周囲の山も、見上げる程になった。とてつもない高低差である。しかし山の形はどれも特徴が有り、厳しくも面白い。

30分ばかりの峠の旅、これだけでも見応えがあった。横川〜軽井沢間のたった一駅、ここだけのためにどれだけの苦労があったか、実に良く分かる景色であった。かつては急勾配の線路を車輪だけで走行するのが難しく、アプト式といってもう一本、歯のついたレール(ラックレール)を敷いて車両にも歯車をつけ、噛み合わせることで昇り降りしていた。やがて路線が新線に付け替えられて、普通の鉄道として車輪だけで昇り降りできるようになったが、それでも前にも書いた通り、勾配対策で機関車の連結(登る方は押し上げ、降りる方はブレーキ強化として)が必須であった。両駅間、11.2kmを走るのに下り列車(峠を登る方)17分、上り列車(降りる方)は24分を要したとのことである。